2010年9月27日月曜日

マキちゃんの恋

2年ぶりに会ったマキちゃんは相変わらずパーっと明るかった。
笑顔がとてもあったかい。
元気だった?と聞くと

私ね、初めて恋をしたの

と言った。
えー、すごいねー!と言う私に

初めてだったの、あんな気持ち。
今まで友達が人を好きになって食事も喉を通らないって話を聞いて
ふ~んそうなんだって思ってたけど ほんとだった。

それで勉強の方はどうしてる?受験はしたの?
マキちゃんは知りあってから思い出す年月の長い間毎年国立大学に受かるため勉強していた。
それはそれは熱心に粘り強く、次々に苦手科目を攻略していった。
そして今度こそはきっと受かるだろうと2年前私は思った。

そしたらマキちゃんはさらっと言った。

受けなかったの。

え、なんで!?

その日デートする約束してたから。

絶句。
あんなにがんばってたのに!どうして!デートは他の日にすればよかったのに!

と熱くなる私にマキちゃんは

だって私の人生で恋が一番大事なことだったんだもん。
他のことはどうでもよかったの。

あーーー。うーーー。私は言葉にならないうなりを続けた。

そしてマキちゃんは言った。

初めての恋で、一生懸命になりすぎちゃって重くなるのは自分でもわかったんだけど止められなくて
それで失恋したの。

私は鼻から大量の湿った息を吐き出した。

初めて失恋してね、もう死ぬかと思った。
息がとまるんじゃないかって。
でもその日もちゃんと仕事したんだよ。自分でもえらいと思ったけど。
そしたら生徒達が心配して「先生かわいいよ。」って手紙に書いてくれたんだ。

うわーん、と私は泣きたかったけど泣きたいのはマキちゃんだ。

いい生徒達だね、よかったね、マキちゃん。

マキちゃんのことを思い出すといつも暖かくなる。
会うたびに素敵な贈り物をくれる。
私が英語をマキちゃんに教えていた時は毎回大きな花束を抱えてレッスンにやってきた。
そしてレッスンが終わると当時美容師さんだったマキちゃんは丁寧に私の髪をトリートメントしてくれた。
写真展には必ず顔を出してくれて私の見たことのないようなお菓子をくれる。
そして元気が出るような言葉を残してまたしばらく会わない時間が訪れる。
マキちゃんが運んでくれるのは私を思ってくれる気持ち。それを強く感じる。
だからうれしい。

失恋したことある?

とマキちゃんが訝しげに私に聞くので

もう何回も何回もあるよ。

そう答えて先輩っぽい気持ちになった私は

でもね、マキちゃん、失恋で人は死なないよ。大丈夫だよ。
また恋をして、いい思い出になるよ。

と言った。


あの日からマキちゃんのことをよく考えている。

私はまた失恋をして、その痛みは日を追うごとに大きくなり
マキちゃんに言った言葉が正しかったのかどうか

マキちゃんは心の人だから、心全部で恋をしたんだね。

そんなマキちゃんは大した人だ、と尊敬しています。