2011年10月24日月曜日

御殿、空を飛ぶ


大野慶人さんと指人形さん 新・港村会館ハンマーヘッド横野外にて
ダンサーのサミーちゃんの誘いで横浜に出かけていった。
大野一雄フェスティバル2011
みなとみらい線の馬車道駅6番出口を出て、まっすぐひたすらに海を目指して歩いて行くと新港村に着いた。
この日はまず建物の外でのパフォーマンス「大橋可也&ダンサーズ」。照明は車のヘッドライト。男女の美しい死体が動いているような動きなんだけど、突然激しくなって、女の人がこけた。もう一度、こけた。それでパフォーマンスが終わるころにはその人の膝と肘には血がにじんできた。その人の痛みを想像しながら、なまぬるい風の中で吹かれていた。
次のパフォーマンスは屋内へ場所を移して。村田峰紀さん。まっ白いシャツを両手に持ったクレヨンやマジックペンで塗りこめていく。観客には背中しか見せない。背中がどんどん色に染まっていく。でも体がかたいのか、塗れる場所が限られていて、それがちょっと悲しかった。もうちょっと体が柔らかければあの白い部分にも手が届くのに。彼の息遣いだけが会場に響いた。
次は大きなゾウやロバのオブジェが見守る「動物園」にて、アンサンブル・ゾネ。ここでサミーちゃん登場。洗練された動き。シンプルな装いにストイックな動きがGAPの宣伝を思い出させる。ベーシストの井野信義さんのコントラバスが低く動きに合わせて鳴る。
また場所を移して、和紙に囲まれた円形劇場。李冽理(りれつり)さんは2010年WBA世界スーパーバンダム級王座獲得のボクサー。着ていた上着を脱いでスパーリングが始まる。パンパンパンと小気味いいリズムと見えないほど速いパンチ。首から肩にかけてじわじわと汗が浮いてくる。彼はただいつもと変わらぬことをやっていたのだと思うけれど、すごいパフォーマンスだった。感動した。スパーリングの終わり頃に再びベースが鳴りだして、今度はアンサンブル・ゾネの代表岡登志子さんの踊り。空間をゆがませるほどの力があるなと感じた。
次。海の見える広い部屋。梅棒のみなさんのパフォーマンス。ポップで楽しいダンスと演劇。天国の審判のシーンではSPEEDのGo!Go!Heavenで踊っていた。集団の踊りがびしっびしっと決まると文句なしに感動する。よかった。
後ろで普通に見ていたと思った人たちが前へ進み出て「赤い靴」を歌い始める。赤い靴ジュニアコーラスのみなさん。もっとも高い音程の女の人の声が突き抜けていて目が離せなかった。
ざざーっという波の音とともに大野一雄舞踊研究所研究生のみなさんがそれぞれ黒い服を着て薔薇を一輪持ってしずしずと歩いてくる。歩くだけでこんなに人は違うのだと驚いた。みんな違う。
PAをやっていた白塗りの人が大野慶人さん(大野一雄さんの息子さん)で、黒い人々の中を一直線にバケツを頭上に掲げて歩いていった。あのバケツを持つ手が震えていたのは演技なのか自然なのか、どうしてもわからなかった。頭の形がすごくきれいだった。窓の外を客船が灯りを灯しながら行く。
そして、その部屋の外に案内され、海をバックに本日最後の舞台。さきほどの白塗りの大野慶人さん(74歳)が小走りにやってくる。かたちのいい頭にピンクの頭巾をかぶってその上にうさぎの耳のヘアバンドをしている。世にも不思議なものを見た。体は30代のように頑強そうで、びしっとしていて、顔を見ると苦しそうな息をする口がブラックホールのように空いている。彫の深い顔。一通り踊った後、音楽が変わった。大野さんは指人形を抱いて再登場。私の前でぴたっと止まった。その瞬間を写真に撮りたかったけれど禁止されていたので撮れなかった。でも撮ればよかった。あんなのは二度と見られないように思う。照明に照らされた白いおじいさんがうさぎの耳をつけて人形を持ってあなたをじっと見ている。後ろは海。
この世はゆめまぼろし。